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FileNo. 042
 
 今回の事例は、道路改良事業により農家住宅敷地内にある4棟の建物のうち、木造2階建専用住宅と木造平屋建倉庫・作業場の2棟が支障となり、合理的な移転方法を検討したケースです。



1.対象の概要

■ 敷地概要
  • 敷地面積 :  約 1,500u
  • 買収面積 :  約  770u
  • 残地面積 :  約  730u
  • 取得割合 :  約  51.3%
  • 用途地域制限    
    • 工業地域
  • 建築制限
    • 建ぺい率  :     60%
    • 容積率    :    200%
    • 防火指定  :防火指定なし
■ 建物の概要 

建物の構造・用途・面積
構造及び用途 建築面積 延床面積 備 考
(A棟)木造2階建専用住宅 160u 300u 一部支障
(B棟)木造平家建倉庫・作業場 40u 40u 全部支障
(C棟)木造平家建倉庫 38u 38u 非支障
(D棟)木造平家建車庫 160u 160u 非支障
398u 538u  


■ 建物と敷地の使用状況等
  • A棟は所有者夫婦が居住しています。
  • B棟は日用品や農器具の倉庫として頻繁に使用されており、屋内では収穫した農作物を、保管及び加工する場所としても利用しています。
  • C棟は日頃使用していない日用品等の倉庫であり、利用頻度も低くなっています。
  • 所有者は、生産農家であり、A棟東側の作業スペースに車で乗り入れ、収穫した農作物の仕分け、洗浄、箱詰、器具の手入れ等を行っています。
  • D棟は、自動車3台分の保管場所となっています。
  • 庭として利用している部分には、庭木等が植栽されています。



2. 検討のポイント

  • 支障となる建物はA棟、B棟であること。
  • 再配置可能な残地が有ること。
  • 敷地北側道路は、敷地GLより1.0m程度下がっていること。
  • A棟東側の空地部分は、作業スペースとして利用していること。
  • 作業スペースまで車で乗り入れ、収穫した農作物や農器具等の般入出を行っていること。
  • C棟は利用頻度の少ない倉庫であること。

3. 考えられる案

 ※ 法制的に、建築基準法上残地に各建物を従前の形状で再配置することは、
   可能です。(下記参照)
残地面積=730.00u、建築面積=398.00u、延べ面積=538.00u 
建ペイ率=730.00×0.6= 438.00u > 398.00u 適 合
容 積 率=730.00×2.0=1,460.00u > 538.00u 適 合

<第一案> A棟曳家工法  B棟再築工法

 残地内にA棟を曳家し、B棟を再築する案です。

■ 利点
  • 経済的です。
  • 建物形状の変更がありません。
■ 問題点
  • A棟東・西側の人の通行が出来なくなります。
  • 作業スペースが減少し、車両の乗り入れも出来なくなります。
  • 庭木の移植先が確保出来なくなります。

 第一案では、A・B棟を従前の形状のまま再配置することは可能ですが、作業スペースが減少し、A棟からB・C棟へ人の通行や作業スペースまでの車両の乗り入れも出来なくなるため、従前と同様の機能回復が図れません。

<第二案> A棟曳家工法 B・C棟構内再築工法(同種同等)
 
 A棟は一度回転させてから、残地内に曳家し、B・C棟は従前と同種同等の建物を再築する案です。
 
※ 残地内の再配置において、B・C棟は曳家工法と再築工法それぞれ考えられますが、建物も古く、構造的にも補強が必要となることから、経済的に曳家工法が再築工法よりも高額となるため、B・C棟については再築工法を採用しました。

■ 利点
  • 従前とほぼ同様の作業スペースの確保が出来ます。
  • 作業スペースへ車両の乗り入れが可能となります。
  • 建物形状の変更がありません。
■ 問題点
  • 関連移転が生じます。
  • 第一案より補償額が高額となります。
  • C棟への出入りが出来なくなります。
  • 庭木の移植先が確保出来なくなります。


 第二案では、関連移転によりC棟を再築工法として、A棟を一度回転させて曳家、B棟を再築工法とし、再配置しましたが、C棟への出入りが出来なくなり、十分な機能回復が図れません。

<第三案> A棟曳家工法 B・C棟を合棟(2階建による照応建物)
 
 A棟は一度回転させてから残地内に曳家し、B・C棟を合棟した2階建の照応建物とする案です。合棟する建物は、1階にB棟の機能を、2階にC棟の機能を配置します。

■ 利点
  • 従前とほぼ同様の作業スペースが、確保出来ます。
  • 人と車両動線が確保できます。
■ 問題点
  • 関連移転が生じます。
  • 第二案とほぼ同額になりますが、第一案より補償額が高額になります。
  • C棟の機能を2階に配置することになり、日用品等の搬入出に支障をきたします。
  • 庭木の移植先が確保出来なくなります。




4. まとめ
以上の3案をまとめると以下の通りとなります。
   第一案 第二案 第三案
A棟 曳家 曳家 曳家
B棟 構内再築(同種同等) 構内再築(同種同等) 構内再築 (合棟による照応建物)
C棟 移転対象外 構内再築(同種同等)
D棟 移転対象外 移転対象外 移転対象外
有形的合理性
機能的合理性 ×
法制的合理性
経済合理性
認定         採用

 第一案は、経済的で再配置も可能ですが、作業スペースが減少し、車両の乗り入れも出来なくなります。また、第二案は、作業スペースの確保は出来ますがC棟への出入りが出来なくなります。

 第三案は、従前の機能を確保するために、支障とならないC棟をB棟と合棟し、頻繁に使用されているB棟の機能を1階、日頃使用しておらず、利用頻度も低いことからC棟の機能を2階と認定し、2階建の照応建物とすることで、従前とほぼ同様の機能回復が図れました。尚、移植先が確保できない庭木については一部伐採補償となりました。よって今回は第三案が採用工法となりました。

 このように、建物が物理的に移転が可能であっても、従来の機能を著しく損なってはなりません。複数棟の建物がある場合は、直接支障となる建物の移転にとらわれず、支障とならない建物の関連移転も考慮し、その範囲及び移転方法は、現地で建物の使用状況、利用形態等を十分把握した上で、検討を行う必要があります。

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